SAPとAIの話、立ち止まって整理しておきたい

「SAP×AI」という言葉を、最近やたらと目にするようになった。

セミナーでも、ベンダーの提案書でも、LinkedInでも。
でも正直、「で、実際どうなの?」という問いに、ちゃんと答えてくれる場所が少ない気がする。

私のIT人生は35年。メインフレームの時代から始まり、クライアントサーバーの波を越え、後半の15年はSAPの現場に関わってきた。
技術の大きな転換点を、何度か経験してきたことになる。

そのたびに「これで仕事が変わる」と言われてきた。
そして実際、変わった。でも、なくなりはしなかった。

AIも、きっとそういう話だと思っている。だからこそ、今一度立ち止まって整理しておきたい。

目次

SAPとAIの関係を大きく整理する

SAPのAIと一口に言っても、実はいくつかの種類がある。整理すると大きく3つだ。

① SAP公式のAI「Joule」
SAPが開発した専用AIアシスタント。SAPのシステムと直接つながっており、自然言語で操作や質問ができる。ただし利用できる環境には条件がある(これは後の記事で詳しく触れたい)。

② Microsoft CopilotやChatGPT・Geminiを活用したAI
現場でよく見るのはこちらだ。Microsoft製品を使っている企業ではCopilotが自然に入ってきている。大手ベンダーが構築した独自フロントエンドの裏側も、エンジンはChatGPTやGeminiであることが多い。

③ 運用保守現場での独自AI活用
個人的に「一番地に足がついているな」と感じるのがこれだ。障害事例や対応ノウハウをAIで蓄積し、誰でも即座に対応できる仕組みを作る。属人化を防ぐ、という目的が明確なぶん、現場への定着率が高い。これはSAPに限らず、周辺システム全体で足並みをそろえて進んでいる企業が増えている。

もう一つ、見落とせない動きがある。エンドユーザー側の変化だ。

各現場に数人は必ずいる。システムベンダーに匹敵するほどAIに詳しく、プロンプトの書き方も熟知し、最新情報に常にアンテナを張っている人たちが。

彼らがやっていることは明確だ。データ分析にAIを使い、システムベンダーへの問い合わせ内容も、受け取った回答も、AIに壁打ちしてノウハウを蓄積していく。

その姿勢の根っこにあるのは、「システムベンダーに頼り続けることへの危機感」だと私は感じている。情報システム部門の存続と先行きを真剣に考えているからこそ、必死にAIを武器にしようとしている。

正直、その姿勢には頭が下がる思いだった。

現場で実際に変わったこと

一番変わったと感じるのは、お客様からの問い合わせへの「初動」だ。

以前はこうだった。
まず有識者や担当者を特定する。テスト機で事象を再現し、要件書・設計書を引っ張り出し、必要であれば開発ベンダーにABAPソースの解析を依頼する。経験とネットワークがものを言う世界だった。

今はこうなっている。
まずAIに相談する。「これはバグか、データ入力ミスか、SAP標準の動作か」——その見当をAIとともにつけてから動く。無駄のない、スピーディな初動が可能になった。

だが、変化の本質はスピードだけではない。

以前は、深い経験を持つベテランや、システムに特化した属人的な人材が優遇される構造があった。その人たちがいないと回らない、だから要員交代も進まない——そういう現場を何度も見てきた。

AIはその構造を変えつつある。SAPを深く知らない人でも、60点の答えを素早くお客様に届けられる。完璧でなくていい。次の手を考えるヒントをすぐに渡せることの価値は、実は100点の答えを遅く届けることより大きい。

トータルで見れば、100点以上の効果とお客様満足度を引き出せる。現場でそれを実感したとき、「これは本物の変化だ」と思った。

まだ変わっていないこと

正直に言おう。AIの波は、現場の人員にも影響を与えている。運用保守要員が減っていく感覚は確かにある。私自身、その影響で離任を経験したことが一度ある。

だからこそ、冷静に言っておきたいことがある。

AIはすべての課題を100%解決しない。

AIにできることは「提案」だ。課題に対するアプローチも、解決策も、複数提示してくれる。それは確かに助かる。だが、どれを選ぶかは人間が判断する。その責任は、人間が負う。

私たちシステム運用保守の仕事で大切にしてきたことがある。お客様の顔を思い浮かべながら、その人に寄り添って解決に当たることだ。

「そんなの当たり前じゃないか」と思う人もいるだろう。でも、AIが生活のあらゆる場面に入り込んできた今、その「当たり前」が静かに失われつつあるような気がしてならない。

お客様がAIに頼って解決策を試みて、うまくいかなかったとき——AIはフォローしない。だが私たちは、自分が提案した解決策に最後まで責任を持つ。

それが、AIと人間の違いだと思っている。

これからどう向き合うか

今回のAIの波は、今まで経験してきたどのIT革命とも比べ物にならないと感じている。

私のスタートは、マウスもないダム端末だった。MS-DOSとマルチプランに感動し、ショートカットキーを必死で覚えた。Windows 2.0から3.1へ、そしてWindows 95——現場に広がっていくたびに、お客様の笑顔があった。あの頃の光景は、今でも鮮明に覚えている。

それから30年。ツールも環境も、想像できないほど変わった。

でも、変わらないものがある。

お客様の「困り」と「不安」だ。どう操作すればいいのか、業務にどう役立てればいいのか——その本質的な悩みは、メインフレームの時代から今日まで、何も変わっていない。

だから私たちのやるべきことも、変わらないと思っている。

お客様を最後まで見捨てない。困りや不安と正面から向き合う。そのうえでAIを使い、1秒でも早く解決に向けて動く。

それだけだ。

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この記事を書いた人

SAPコンサルタントとして35年以上、数多くの現場を歩き続けてきました。
プロジェクトの裏側、現場で学んだこと、失敗と気づきをここに綴ります。
投資・旅行・フルマラソン。まだまだ現役で走り続けています。

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