今、私はS/4HANAのCOモジュールのいち担当者として、システム保守の現場に立っている。
「いち担当者」と書いたのには、理由がある。少し前まで、私は違う立場にいた。
リーダーを降りて、いち担当に戻った
直近の10年ほど、私は経理系のSAPシステム保守の、小さなチームのリーダーを務めていた。
リーダーの仕事は、自分で手を動かすことが中心ではない。メンバーが困っているときに手助けし、作業をチェックし、成果物を承認する。そして、他のチームや他システムのリーダー・幹部とすり合わせ、システム全体の最適化を進める。そういう役割だった。
60歳が近づき、私はそのリーダーの役を若手にバトンタッチした。そして、現場のいち担当に戻った。リーダーを支え、現場を——つまりお客様の業務を支える立場に、最近変わったのだ。
「いざとなれば何でもできる」は、思い込みだった
立場が変わって、痛感したことがある。
これまで私は、どこかでこう思っていた。自分は手を動かせる。頭である程度は理解している。だから、いざとなれば何でもできる、と。
ところが、いざ現場で手を動かす立場に戻ってみると、イメージどおりには手も頭も動かない。昔は当たり前にやっていたことが、すぐには出てこない。「できるはず」と「実際にできる」の間に、思っていた以上の距離があった。
これは、なかなかこたえる体験だった。
背中を押してくれたのは、AIだった
そんなとき、私の背中を押してくれたのが、AIだった。
私は現場では年長のほうだ。プライドが高い方でないと思いますし、年下のメンバーにズケズケと、何でも相談したり聞いたりできるつもりでいた。
だが、現実はそう単純でもない。昔できていたこと、昔は知っていたはずのトランザクションを思い出せないとき——そういう場面に限って、軽く人に聞けないことがある。年長者としての、ささやかな引っかかりだ。
そんなとき、私はAIに頼る。気がねなく、何度でも聞ける。ときには、本来ならメンバーや上司に相談するような、深いシステムの相談まで、AIに頼ってしまうこともしばしばある。
正直、助けられている。AIがいなかったら、この立場の変化をもっと苦しく感じていたかもしれない。
でも、使い込むほどに気づいたこと
ただ、AIを使い込めば使い込むほど、はっきりと見えてきたことがある。
自分が相談したことに、きちんと自分自身が向き合っていないと、返ってきた答えに責任を持てない、ということだ。
たとえば、お客様からの問い合わせを、AIに相談することがある。AIは、それらしい答えを返してくれる。では、その答えを、そのままお客様にぶつけたら、どうなるだろうか。
仮に、それでお客様の困りが解決したとする。それでも——何か、虚無感に襲われることはないだろうか。
私は、ある。
AIを使う側の付加価値は、どこにあるのか
「早く回答できることこそ正義だ」という人もいるだろう。それも一理ある。私はAIを否定したいわけではない。現に、こんなに助けられているのだから。
私が問いたいのは、もっと別のことだ。
AIを使う側の付加価値は、いったいどこにあるのか。
私は、自分の稼働に対して対価をいただいている。その私が、AIから返ってきた答えを、そのままお客様に返すだけだとしたら——それは、いただいている対価に見合った価値を、まっとうに交換できていることになるのだろうか。
もしそうなら、話は単純だ。お客様は、私たちのようなシステム運用保守に頼る必要などない。すべてAIに直接たずねれば済んでしまう。
波は、もう押し寄せている
近い将来、システム運用保守のエンジニアの仕事が、まったくなくなるとまでは言わない。
だが、大幅に減少する。私はそう感じている。そして、その波はもう、目の前まで押し寄せている。
いち担当に戻り、AIに頼りながら現場に立つ。その日々の中で、私はこの危機を、頭ではなく肌で感じている。「AIをどう使うか」ではなく、「AIを使う私たちに、どんな価値が残るのか」が、今まさに問われているのだ。
それでも、残るものがあると信じたい
では、答えはあるのか。正直、まだ私も探している途中だ。
ただ、ひとつだけ言えることがある。AIの答えに、自分が本気で向き合うこと。その答えを鵜呑みにせず、自分の経験と判断を通し、自分の言葉に変えて、自分の責任として相手に届けること。そこにこそ、AIを使う側の付加価値が宿るのではないか、と。
虚無感を覚えるのは、そのひと手間を飛ばしたときだ。逆に言えば、そのひと手間を惜しまない限り、私という人間が介在する意味は、まだ残っている。そう信じたい。
便利な道具ほど、使い手の真価が問われる。AIの時代に現場へ戻った私は、毎日その問いと向き合っている。
同じような現場に立つ方の、何かのヒントになれば嬉しい。記事へのご感想やご意見があれば、お問い合わせフォームからお寄せいただけると励みになる。
(このシリーズでは、SAP×AIの現場リアルをお届けしています。)

コメント