Jouleが得意なこと・苦手なこと、現場目線で整理した

Jouleについての話をするとき、「すごい」か「使えない」かの二択になりがちだ。

どちらも正確ではない、というのが現場を歩いてきた私の感覚だ。

Jouleには得意なことと苦手なことがある。それを知った上で使うのと、知らずに使うのでは、結果がまったく変わってくる。今回はその「得意・苦手」を、できるだけ現場の視点から整理してみたい。

目次

Jouleとは何者か(簡単におさらい)

Jouleは、SAP社が提供するAIアシスタントだ。20万ページ以上のSAPドキュメントと2TBのコミュニティ知識を学習しており、2.5億行のABAPコードを学んだ専用LLMも使われている。

単なる「チャットボット」ではなく、SAPシステムの内側に組み込まれたAIだ。そこが、ChatGPTやClaudeといった汎用AIとの根本的な違いになる。

Jouleが得意なこと

① SAPの標準仕様・操作手順を即答できる

「このTコードは何をするためのものか」「この設定項目の意味は」「この画面でどう操作するか」——こうした問いに、Jouleは驚くほど的確に答える。

20万ページのドキュメントを学習しているとはどういうことか。SAP Help Portalを一人で全部読もうとすれば、何年かかるかわからない。それを瞬時に引き出せるのがJouleの強みだ。

② エラーメッセージの原因候補を素早く提示できる

現場でよくあるのが、エラーメッセージを見ても「何が起きているのかわからない」という状況だ。

Jouleはエラーの内容を受け取り、考えられる原因の候補を提示してくれる。もちろん最終的な判断は人間がするが、「何から調べればよいか」の入口を示してくれる価値は大きい。特に経験の浅い担当者にとっては、大きな助けになる。

③ 本番データに直接アクセスして分析できる

これが、汎用AIとの最大の違いだ。

ChatGPTやClaudeにできることは、人間が言語化して伝えた情報を元に考えることだけだ。「こういうエラーが出ています」と説明しなければならない。

Jouleは違う。SAP内のデータに直接アクセスし、実態を見ながら分析できる。バッチ処理のボトルネックがどこにあるか、どのテーブルに問題があるか——そういった調査を、実データをもとに行える。これは運用保守の現場において、非常に大きな意味を持つ。

④ ABAPコードを読んで説明できる

2.5億行のABAPコードを学習済みというだけあって、コードの解釈を問うと丁寧に説明してくれる。「このプログラムが何をしているか」「ここでエラーが出る理由は何か」——コードを読むのが得意でない担当者にとっては、大きな武器になる。

Jouleが苦手なこと

① 「あなたの会社がなぜその仕様を選んだのか」はわからない

現場で最も多い問い合わせのひとつが、「なんでこうなってるの?」だ。

SAPの標準仕様として「こういう動きをする」という説明はJouleにもできる。だが、「あなたの会社が、導入プロジェクトのときになぜこの設定を選んだのか」は、どこにも学習データがない。それはお客様固有の意思決定の経緯であり、文書化されていないことがほとんどだ。

この問い合わせの核心部分に、Jouleは届かない。

② アドオン(カスタム開発)の領域は弱い

Jouleが学習しているのはSAPの標準機能だ。お客様ごとに作られたアドオン(カスタム開発)のロジックは、当然Jouleは知らない。

S/4HANAのクリーンコア(アドオンを最小限に抑える設計思想)が広まりつつある今、この制約は徐々に小さくなっていくかもしれない。だが現時点では、アドオンが多い環境でJouleに頼りすぎると痛い目を見る。

③ 最終判断は、人間がしなければならない

Jouleが出す答えは「可能性の高い回答」だ。正解一択ではない。

SAPは一つの設定変更が思わぬ場所に影響を及ぼすことがある。「Jouleがこう言ったから」では済まない。答えを受け取り、「これは本当に正しいか」「この環境で実行していいか」を見極める目は、やはり経験から来るものだ。

Jouleはあくまでも判断材料を提供するツールであり、判断の主体は人間だという前提は変わらない。

④ アウトプットをそのまま使うと、自分の言葉ではなくなる

これはJouleだけの話ではないが、現場で最近強く感じていることとして書いておきたい。

AIのアウトプットをそのままお客様に発信すると、普段自分が使わない言い回しや言葉づかいになりがちだ。受け取った相手は、どこかで違和感を覚える。「いつもと違う」と。

AIの答えは、あくまでもたたき台だ。それを自分の言葉に変換し、自分の経験と判断を乗せて、自分の責任として伝える——その一手間こそが、コンサルタントとしての仕事だと思っている。

Jouleが答えを出してくれるからこそ、「自分がどう判断し、どう伝えるか」が問われるようになる。便利なツールほど、使い手の質が出る。

使いこなすには、前提知識がいる

もう一点、現場で気づいたことがある。

JouleはSAPの知識を「ゼロにする」ツールではない。「持っている知識を増幅する」ツールだ。

SAPをある程度知っていれば、Jouleへの問いかけが的確になり、返ってくる答えも使いやすくなる。逆に、SAPの基礎知識がない状態でJouleを使っても、その答えが正しいのかどうかすら判断できない。

「Jouleがあれば知識ゼロでも大丈夫」という期待は、今の段階では早い。知識があるほどJouleは強くなる——そういうツールだと理解しておく必要がある。

まとめ

場面Jouleの評価
SAPの標準仕様・操作手順の確認✅ 得意。即答できる
エラーメッセージの原因調査✅ 得意。候補を素早く出せる
本番データに基づく分析✅ 得意。汎用AIとの最大の差
ABAPコードの解釈・説明✅ 得意。コードを読んで説明できる
お客様固有の設計経緯の説明❌ 苦手。学習データがない
アドオン領域の詳細調査❌ 苦手。標準機能外は弱い
実行可否の最終判断⚠️ 判断材料は出すが、決めるのは人間
アウトプットをそのまま使うこと⚠️ 自分の言葉への変換が必ず必要

得意・苦手を知った上で使えば、Jouleは現場の強力なパートナーになる。知らずに使えば、期待外れで終わる。

どちらになるかは、使い手次第だ。

同じような現場に立つ方の、何かのヒントになれば嬉しい。記事へのご感想やご意見があれば、お問い合わせフォームからお寄せいただけると励みになる。

(このシリーズでは、SAP×AI×COの現場リアルをお届けしています。)

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この記事を書いた人

SAPコンサルタントとして35年以上、数多くの現場を歩き続けてきました。
プロジェクトの裏側、現場で学んだこと、失敗と気づきをここに綴ります。
投資・旅行・フルマラソン。まだまだ現役で走り続けています。

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