このシリーズで、私は自分の資格取得体験を3回にわたって書いてきた。始末書を書いた苦い記憶、100点の呪縛、そして自分の強みを見つけたという収穫。すべて10年以上前、あるいは古い記憶に基づく話だ。
では、今のSAP認定試験はどうなっているのか。気になって調べてみた。
正直に言うと、驚いた。私が受けたあの試験とは、もう別物になっていた。
最初にお断りしておくと、私自身は新制度の試験をまだ受けていない。だからこれは「受けてみた感想」ではなく、「調べてわかった事実」と、それに対する古い世代の私の所感だ。そのつもりで読んでいただきたい。
もう一点、大切なお断りがある。ここに書く試験制度の情報は、本記事公開時点(2026年5月末〜6月初頭)で私が調べた範囲のものだ。SAPの認定試験制度は今まさに移行の真っ最中で、内容や時期は今後どんどん書き換わっていく。実際に受験を検討される際は、必ずSAP社の公式サイト(SAP Learning Hub / SAP Certification)で最新情報をご確認いただきたい。この記事はあくまで「ある時点でこう変わりつつあった」という記録として読んでいただければと思う。
変化①:一度取れば終わり、ではなくなった
まず一番大きな変化がこれだ。SAP認定資格に「有効期限」がついた。
「Stay Certified」と呼ばれる継続更新制が導入され、資格の有効期限は原則12ヶ月。期限内に更新アセスメントを受けなければ、資格は失効する。
私が取った頃は、一度合格すれば長期間にわたって有効だった。極端に言えば「取りっぱなし」でよかった。だが今は違う。毎年、最新の状態を保ち続けなければ資格を名乗れない。
S/4HANAが半年ごとに進化していく時代だ。資格に期限がつくのは、考えてみれば自然な流れなのかもしれない。「昔取った資格」が通用しない仕組みになった、ということだ。
変化②:暗記の多肢選択から、実技へ
これが、私にとって一番衝撃的だった変化だ。
私が受けた頃の試験は、多肢選択式だった。問題を読んで、正しい選択肢を選ぶ。知識をどれだけ正確に暗記しているかが問われた。だからこそ「100点を取れ」という指示が成り立ったし、私は記憶との戦いに明け暮れた。
今は、パフォーマンスベース試験へ移行しつつある。SAPシステムのシミュレーション環境で、実際に操作して課題を解く形式だ。「知っているか」ではなく「できるか」を問う方向に変わった。
SAP社の発表によれば、2025年11月からBTP Administratorなどの試験で実技形式が始まり、2026年3月末までに順次移行を進めるとされている。
暗記ゲームだった試験が、実務シミュレーションになる。これは試験の性格そのものが変わったと言っていい。
変化③:オープンブック、しかもAIツール使用可
そして、私が思わず二度見した変化がこれだ。
新しい試験はオープンブックになった。SAPの公式ドキュメントを参照してよい。それどころか、AIツールの使用まで認められる方向だという。
私の時代の感覚で言えば、これは「カンニングOK」に等しい。1問間違えただけで始末書を書いた身からすると、めまいがするような話だ。
だが、少し考えてみて、腑に落ちた。
実際の現場で、私たちはドキュメントを見ながら仕事をする。今ではAIにも相談する。何も見ずに全部暗記でこなす現場など、どこにもない。だとすれば、試験もそれに合わせて「資料もAIも使った上で、正しく課題を解けるか」を問う方が、よほど実態に近い。
変化④:試験コードも世代交代している
細かい話だが、試験コードも入れ替わっている。
私が取ったECC6.0のFI試験(C_TFIN52)は、S/4HANA対応のC_TS4FIへと後継が移っている。私が苦労して取得したもう一つのNetWeaver系の試験も、今ではBTPやBasis系の資格へ段階的に再編されている。
試験の数は100種類を超え、最大9言語で提供されているという。SAPという製品群の広がりが、そのまま資格体系の広がりになっている。
私が「FIの資格を持っています」と言っても、その試験コードはもう存在しない。少し寂しくもあるが、それだけ世界が前に進んだということだ。
「暗記」から「判断」へ——問われるものが変わった
こうして並べてみると、変化の方向性ははっきりしている。
知識を暗記しているかではなく、資料やツールを使いこなして、正しく判断し、実際に手を動かせるか。試験が問うものが、そこへ移ったのだ。
これは、私がこのシリーズでずっと書いてきたことと、奇妙に重なる。資格に受かることと、現場で使えることは違う——35年の現場で何度も感じてきたことだ。新しい試験制度は、その「乖離」を埋めようとしているように見える。
AIを使ってよい試験、というのも象徴的だ。これからのSAPコンサルは、AIを前提に仕事をする。だから試験でもAIを使う。Jouleをはじめとするツールをどう使いこなすかが、これからの専門性の一部になっていく——その流れと、まっすぐつながっている。
古い世代として、思うこと
正直、少し羨ましい。
もし今の制度で受験できたら、あの100点の呪縛に苦しむこともなかったかもしれない。資料を見て、考えて、操作する——それなら、暗記の重圧ではなく、実務の延長として試験に向き合えただろう。
だが、暗記に苦しんだ世代だからこそ言えることもある。土台となる知識が頭に入っていなければ、資料を引くスピードも、AIへの問いの精度も上がらない。「見ていい」時代になったからといって、「覚えなくていい」わけではない。前回書いた通り、知識は判断を支える土台であり続ける。
試験は変わった。問われ方も変わった。けれど、「現場で本当に使える人になる」という最終目標は、昔も今も変わっていない。そこに向かう道が、より実態に近づいただけだ。
4回にわたってお付き合いいただき、ありがとうございました。古い体験談から始まったこのシリーズが、これから資格に挑む方の何かのヒントになれば嬉しい。
同じような現場に立つ方の、何かのヒントになれば嬉しい。記事へのご感想やご意見があれば、お問い合わせフォームからお寄せいただけると励みになる。
(このシリーズでは、SAP認定資格とキャリアのリアルをお届けしています。)

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