このシリーズの最初に、私はひとつの問いを残していた。
「資格を取って、現場は変わったか」
正直に答えると、外から見える変化は、思ったほどなかった。だが、まったく別のところに、大きな収穫があった。今回はその話をしたい。
外から見える変化は、正直少なかった
第1回でも触れたが、資格を取ったからといって、お客様からの見られ方が劇的に変わったわけではない。案件が一気に増えたわけでもない。
現場では「どんな経験をしてきたか」「どんな課題を解決してきたか」のほうが、はるかに重く見られる。資格は名刺の片隅に書ける肩書きにはなるが、それ以上でも以下でもない——というのが、長くやってきた実感だ。
だから「資格を取れば人生が変わる」という言い方には、私はあまり乗れない。
ただ、それで「資格は無意味だった」とは思っていない。むしろ逆だ。資格取得は、私に予想外の贈り物をくれた。
本当の収穫は、自分の「強み」を見つけたこと
2度の受験を通じて、私はあることに気がついた。
自分は、記憶する勉強を「楽しんでできる」人間だ、ということだ。
これは、自分でも意外な発見だった。長年ABAP開発を軸にやってきて、自分の強みは「論理を組み立てる力」や「現場で問題を解く力」だと思っていた。暗記は、どちらかといえば苦手な部類だと思い込んでいた。
だが、試験勉強を進めるうちに気づいた。覚えること自体は、確かに単純作業で苦痛だ。だが、その先にある「合格」という具体的な成果——しかも100点近い点数——を手にしたとき、自己肯定感がぐっと上がる。その感覚が、私は嫌いではなかった。むしろ、好きだった。
苦痛なはずの暗記作業を、成果への階段だと思えば、楽しめる。これは立派な強みだと、後になって思うようになった。
最近、AZ-900を取った
その強みを、最近また使った。
Microsoft AzureのAZ-900(Azure Fundamentals)という資格を取得した。クラウドの基礎を問う入門資格だ。SAPの認定試験とは経路がまったく違うが、勉強のアプローチは同じだった。
用語を覚え、概念を整理し、問題を繰り返し解く。あの「記憶を楽しむ」やり方で、無理なく合格できた。
面白いのは、SAPの資格を取ったときに発見した自分の強みが、まったく別の分野でそのまま通用したことだ。SAPもAzureも、対象は違う。だが「覚えることを成果につなげて楽しむ」という自分のやり方は、領域を超えて使える武器だった。
なぜ今、Azureなのか
AZ-900を取ったのは、思いつきではない。
SAPの世界は今、クラウドとAIの方向へ大きく舵を切っている。S/4HANAはクラウド環境での稼働が当たり前になりつつあり、JouleをはじめとするAI活用も、その基盤の上で動く。SAPだけを見ていては、これからの現場についていけないという危機感がある。
クラウドの基礎を体系として押さえておくことは、SAP × AIの時代を生き抜くための布石になる。AZ-900はその第一歩だった。
そしてここでも、「記憶を楽しめる」という自分の強みが効いてくる。新しい分野の知識を、苦痛ではなく成果への階段として積み上げられる——この性質を自覚しているかどうかは、これからの学び直しにおいて大きな差になると感じている。
資格が教えてくれた、本当のこと
3回にわたって、SAP認定資格との付き合いを振り返ってきた。
始末書を書いた苦い体験。やらされ資格と、自分で取った資格の違い。そして、現場は思ったほど変わらなかったという正直な実感。
だが、最後にこう思う。
資格が変えてくれたのは、現場ではなく、自分自身の理解だった。
「自分はこういうことが得意なのか」「こういうやり方なら、新しいことも楽しく学べるのか」——その発見こそが、資格取得という経験の、本当の収穫だったと思っている。
資格を、肩書きを増やすためだけのものと捉えるか。それとも、自分を知るための機会と捉えるか。どちらの目で向き合うかで、得られるものはまったく変わってくる。
これから資格に挑む人がいるなら、点数や合否だけでなく、「自分はどう学ぶ人間なのか」にも目を向けてほしい。そこに、思いがけない強みが眠っているかもしれない。
同じような現場に立つ方の、何かのヒントになれば嬉しい。記事へのご感想やご意見があれば、お問い合わせフォームからお寄せいただけると励みになる。
(このシリーズでは、SAP認定資格とキャリアのリアルをお届けしています。)

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