SAP運用保守のサービスレベル、現場のリアルを話す

SAP運用保守の契約書には、たいていサービス時間が明記されている。

「月曜から金曜、9時から18時。ただし昼休憩12時〜13時を除く」——そういった形だ。

書面の上ではきれいに見える。だが現場に長くいると、このサービスレベルという概念が実は「費用との綱引き」の産物だということが骨身に染みてわかってくる。

目次

SLAが設定される理由——費用との綱引き

SLA(サービスレベルアグリーメント)とは、運用保守ベンダーとお客様の間で取り決める「対応品質の約束」だ。対応時間、応答時間、解決時間などが数字で定義される。

なぜ「9時〜18時」と区切るのか。理由はシンプルで、コストを抑えるためだ。

24時間365日対応にすれば当然それだけの人員と費用が必要になる。お客様も費用を抑えたい。ベンダーも採算を取らなければならない。その折り合いの結果として「平日昼間だけ」という形が生まれる。

理屈はわかる。だが、システムを使うのは人間だ。業務は9時にぴったり始まって18時にぴったり終わるわけではない。

ある夕方、18時前後に起きたこと

現場でこんなことがあった。

17時を過ぎた頃、お客様から問い合わせが入った。「業務処理中にエラーが出た。当日中に解決したい」という内容だった。

担当メンバーはすぐに動き始めた。ログを確認し、エラーの原因を追いかける。調べていくうちに、問題はSAPではなくSAPに連携している元システム側にあることがわかってきた。

元システムの保守担当者に連絡を取ろうとした。が、向こうはすでにサービス時間外で、受け付けてもらえない。

行き詰まった状態で、お客様への状況報告のために連絡を入れた。すると——すでに退社されていた。

「当日中に解決したい」と言われた言葉を受けて、メンバーは全力で動いていた。だが、どこまで急いでいるのかを確認しないまま突っ走っていた。お客様の温度感を誰も確かめていなかった。

その後、メンバーからリーダーへ報告が上がってきた。だが、その頃には当日中に手を打てる状態ではなくなっていた。結局、翌日対応になった。メンバーが帰路についたのは、終電ギリギリの時間だった。

この経験が教えてくれたこと

「急いでいる」を鵜呑みにしない——まず温度感を確認する

「当日中に解決したい」という言葉は、必ずしも「今すぐでないとまずい」を意味しない。

お客様が退社されるほどの状況であれば、翌朝でも十分だったかもしれない。最初の段階で「どこまで急いでいますか?業務への影響はどの程度ですか?」と一言確認していれば、その後の動きは変わっていた。

緊急度の確認は、手を抜くことではない。正しい優先度で動くための、最初の必須ステップだ。

SAPだけで完結しない問題の怖さ——連鎖する時間外の壁

SAP運用保守の現場では、問題がSAPの内側だけで完結しないことが珍しくない。

周辺システムからのデータ連携、外部インターフェース、別ベンダーが管理するシステム——それぞれにサービス時間があり、それぞれに都合がある。一つの問題が複数のシステムにまたがると、時間外の壁が連鎖して詰むという状況が生まれる。

「SAPを担当しているから、SAP以外は知らない」では、現場は回らない。周辺システムの担当窓口、連絡先、サービス時間を把握しておくことが、いざというときの初動の速さを決める。

報告のタイミングが結果を変える——早めに上げる文化の大切さ

あの夜の経験で、もう一つ痛感したことがある。

メンバーからリーダーへの報告が上がったのは、手を打てる状況ではなくなってからだった。もし調査の段階で「元システム側の問題と判明しました。向こうのサービス時間外なので当日対応が難しい状況です」と早めに上げていれば、リーダーが判断できるタイミングがあった。

「解決してから報告する」という意識は真面目さの表れでもある。だが、行き詰まったら早めに上げることの方が、チームとしての対応力を高める。完璧な報告よりも、タイミングの良い報告の方が価値がある場面は多い。

SLAの数字と、現場の誠実さは別の話

この話には、もう一つの側面がある。

契約上のサービス時間は9時〜18時だった。18時以降に起きた問題を翌日対応にしたとしても、SLAの数字としては「違反ではない」かもしれない。

だが、それで信頼が守られるかどうかは別の話だ。

お客様が本当に求めているのは、「契約通りの対応」よりも「誠実なコミュニケーション」だと、長い現場経験の中で何度も感じてきた。状況がどうなっているか、いつ解決できるのか、何が障壁になっているのか——それを正直に、適切なタイミングで伝えることが、数字よりもずっと大切だ。

SLAは費用と品質のバランスを保つための仕組みだ。でも、その枠の中でどう誠実に動くかは、数字では測れない部分にある。

まとめ

現場でよくある落とし穴対策
「急いでいる」を鵜呑みにして突っ走る最初に緊急度・業務影響を確認する
問題がSAP以外にまたがって手詰まりになる周辺システムの窓口・時間を事前に把握しておく
解決してから報告しようとして遅くなる行き詰まったタイミングで早めに上げる
SLAの数字だけを守って信頼を損なう誠実なコミュニケーションを数字より優先する

サービスレベルは費用と品質の折り合いだ。その枠の中で、誠実に、賢く動く——それが運用保守の現場で積み上げてきた私の答えだ。

同じような現場に立つ方の、何かのヒントになれば嬉しい。記事へのご感想やご意見があれば、お問い合わせフォームからお寄せいただけると励みになる。

(このカテゴリでは、SAP運用保守の現場リアルをお届けしています。)

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この記事を書いた人

SAPコンサルタントとして35年以上、数多くの現場を歩き続けてきました。
プロジェクトの裏側、現場で学んだこと、失敗と気づきをここに綴ります。
投資・旅行・フルマラソン。まだまだ現役で走り続けています。

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