問い合わせに潜む「本当の課題」——表面の質問と、根っこの困り

運用保守の現場に長くいて、しみじみ思うことがある。

お客様からの問い合わせは、言葉どおりに受け取ってはいけない、ということだ。

表面に出てくる質問の奥には、たいてい「本当に困っていること」が別にある。そこに気づけるかどうかで、対応の質はまるで変わってくる。今日は、問い合わせ対応の”奥行き”について書いてみたい。

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表面の質問と、本当の困りはズレている

たとえば、こんな問い合わせが来る。

「このトランザクションの使い方を教えてください」

素直に使い方を答える。お客様は「ありがとうございます」と言う。一件落着——のように見える。

だが、よく聞いてみると、そもそもそのトランザクションは、お客様がやりたいことには向いていなかった、ということが珍しくない。お客様は「この方法しかない」と思い込んで質問してきただけで、本当にやりたいことは、まったく別の機能で、もっと簡単に実現できた——。そういうことが、現場では本当によくある。

質問の言葉どおりに答えると、お客様の「やりたいこと」ではなく「やろうとしている手段」に答えてしまう。これが、すれ違いの始まりだ。

「なんでこうなってるの?」の奥にあるもの

もうひとつ、現場で多い問い合わせがある。「この仕様、なんでこうなってるの?」だ。

この質問の奥には、たいてい、お客様自身ではない誰かがいる。多くの場合、お客様は上司や経営層から「この仕様の根拠を説明してほしい」と求められていて、その答えを探している。つまり、質問しているご本人が一番知りたいわけではないことすらある。

このとき、「SAPの標準動作です」とだけ答えるのは、技術的には正しくても、お客様の本当の困り——”上に説明できる材料がほしい”——には応えていない。背景を想像し、「上の方に説明するなら、こういう経緯と理由が考えられます」とまで添えられるかどうか。そこに、対応の差が出る。

「エラーが出た、直して」の温度感

「エラーが出ました。直してください」という問い合わせも、言葉だけでは中身が分からない典型だ。

同じ「エラーが出た」でも、状況はまるで違う。今すぐ業務が止まって大勢が困っているのか、たまたま気づいただけで実害はまだないのか。月末の締めが迫っているのか、来月でも構わないのか。

この”温度感”を確かめずに走り出すと、緊急でないものに飛びついて、本当に急ぐべきものを後回しにしてしまう。以前、私が書いたサービスレベルの記事でも触れたが、「どこまで急いでいますか」「業務への影響は」と最初に一言確認することが、正しい優先順位で動くための出発点になる。

「このデータ、おかしい」は氷山の一角

「このデータがおかしいので直してほしい」という問い合わせも、要注意だ。

言われたデータを直すだけなら簡単だ。だが、なぜそのデータがおかしくなったのか——そこに目を向けると、たいてい根っこがある。前の工程で入力ルールが守られていなかったり、別システムからの連携データに問題があったり。表面のデータだけ直しても、同じことが翌月も再来月も起きる。

目の前の一件を直すのは「対症療法」、原因を断つのは「根治」。問い合わせ対応の本当の価値は、後者に手が届くかどうかにある。もちろん毎回そこまでできるわけではないが、「これは氷山の一角かもしれない」という視点を持っているかどうかで、現場の安定はまるで変わってくる。

本当の課題に辿り着くために

では、表面の質問から、本当の困りに辿り着くにはどうするか。特別なことではない。

ひとつは、「それで、最終的に何をしたいのですか」と、目的を尋ねること。手段ではなくゴールを聞くと、すれ違いの多くは消える。

もうひとつは、「いつまでに、どうなれば困らないのですか」と、ゴールと期限を確かめること。これで温度感と優先度が見える。

そして、一件の問い合わせを「点」ではなく「背景のある出来事」として見ること。この人は今、どんな状況で、何に追われていて、誰に向けて困っているのか。そこまで想像が及んだとき、初めて本当の課題が見えてくる。

ここは、AIにはまだ難しい領域だ

最近よく考えるのは、この「本当の課題を掘り当てる」という仕事こそ、AIにはまだ難しい領域だということだ。

表面の質問に答えるだけなら、AIは驚くほど速い。「このトランザクションの使い方」も「このエラーの原因候補」も、即座に返してくれる。

だが、質問の言葉の奥にある、お客様の言葉にならない事情——上司に詰められている焦り、月末の重圧、「本当はこうしたい」という言語化されていない願い。それを汲み取るのは、今のところ人間の仕事だ。問い合わせ対応の価値は、答えの速さではなく、相手の本当の困りにどれだけ近づけるかにある。私はそう思っている。

問い合わせは、答えるものではなく、本当の困りに辿り着くもの。言葉の奥に耳をすませる——それが、運用保守という仕事の、いちばん面白くて、いちばん難しいところだ。

同じような現場に立つ方の、何かのヒントになれば嬉しい。記事へのご感想やご意見があれば、お問い合わせフォームからお寄せいただけると励みになる。

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この記事を書いた人

SAPコンサルタントとして35年以上、数多くの現場を歩き続けてきました。
プロジェクトの裏側、現場で学んだこと、失敗と気づきをここに綴ります。
投資・旅行・フルマラソン。まだまだ現役で走り続けています。

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