以前、すごい人にはなれなくても、ならうことはできるという記事を書きました。私が出会ってきた「すごい人」たちのラインナップを挙げて、ひとり一人については回をあらためて書きたい、と結びました。今日はその第一回です。会議の会話を、すべて記憶している方のお話です。
リモート会議の中で、ひとり目立つ方がいた
数年前、コロナ禍の最中のことです。私はある開発現場に参画し、お客様との10名ほどのリモート定例会に、自宅から参加していました。
リモート会議というのは、集中力を欠く環境や事象が起こりえます。宅配便が来る。家族に声をかけられる。誰しも、身に覚えがあるのではないでしょうか。そんな中で、お客様側にひとり、目立つ方がいらっしゃいました。
声が大きいわけではありません。けれど、的確に言葉を発し、周囲の発言を丁寧に質問しながら理解し、吸収していることが、画面越しでも伝わってくるのです。上席の方かと思いましたが、声の感じは若々しい。会議のあとで自社のメンバーに確認すると、30歳前後の、お客様側のリーダーだといいます。マネージャーではありません。それでも「間違いなく、このプロジェクトのキーマンです」と断言されました。
ITの現場は高齢化が進み、40代後半から50代前半がキーマンとしてプロジェクトを回している姿をよく見かけます。その中で、30歳前後のキーマン。第一印象から、興味が湧きました。

日付も、発言者も、正確に
幾度か会議をご一緒するうちに、他の打合せではあまり聞かない「確認のされ方」に気づきました。
あるとき、過去に解決したはずの課題が再発しました。原因の報告を受けたそのリーダーは、こう確認されたのです。
以前、初めてこの課題が発生したXX月XX日には、〇〇さんから原因は△△だったと報告を受けました。その後XX月XX日に恒久対応を実施いただき、再発しない旨の報告を□□さんから受けています。先ほどの原因のご報告は、それと矛盾しませんか?
おおむね、このような内容でした。日付と発言者のお名前を間違いなく挙げ、過去に他の方が発言した内容を正確に再現していました。しかも、こうした場面は一度ではありませんでした。ときには、他愛のない雑談まで正確に再現されることがあり、驚かされました。
メモを取っている方は、どの現場にもいらっしゃいます。けれど、それをすぐに、正確に引き出せる方は、なかなかいません。おそらくメモの力と記憶の力の両方なのでしょうが、いずれにしても、会議の会話がすべてこの方の中に「生きた状態」で残っている。そう感じさせる方でした。
AIが議事録を書く時代に
昨今は、会議を録画し、AIが議事録を作ることが多くなりました。それ自体は、とても良いことだと思います。記録の手間が減り、漏れも減ります。
ただ、その一方で、人が議事録を記録しなくなったことで、会議への集中力が削がれたり、大事なワードや発言を聞き逃したり、流してしまったりすることが起きているようにも感じます。「あとでAIの議事録を見ればいい」という安心感が、その場で聴く力を少しずつ弱めているのではないでしょうか。
人が記録していても、漏れは多いものです。その中で、日付も発言者も正確に再現できるあの能力は、尊敬に値します。では、どういう心持ちで会議に参加すれば、ああなれるのか。ご一緒する日を重ねるうちに感じたのは、あの方が日頃から人の会話を大事にし、言葉を大事にしている、ということでした。会議のテクニックではなく、日常の姿勢から培われた力なのだと思います。
以前書いた先輩の腕時計の長針——言葉にする力のお話とも、どこかでつながっている気がします。聴くことと、言葉にすること。AIが得意になればなるほど、それを使う側の人間の聴く力・言葉の力が、かえって価値を持つのだと思うのです。
同じにはなれない。それでも、ならうことはできる
あの方と同じことは、私にはできません。あの記憶力と再現力に、いまから追いつけるとも思っていません。
それでも、あの方の仕事に対する熱意と思い、そして会議に臨む姿勢を、見習う(ならう)ことはできます。人の発言を、聞き流さない。言葉を、大事に扱う。AIの議事録に頼り切らず、その場で聴き切る。そういう一つひとつなら、明日からの業務でも実践できます。
すごい人にはなれなくても、ならうことはできる。各論の第一回は、「聴く力」のすごい方のお話でした。このシリーズは、これからも続けていきたいと思います。
同じような現場に立つ方の、何かのヒントになれば嬉しいです。記事へのご感想やご意見があれば、お問い合わせフォームからお寄せいただけると励みになります。
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