以前、属人化の現場で私が見たものというシリーズを5回にわたって書いた。特定のひとりに知識と作業が集中したチームを、1年半かけて立て直した話だ。
あのシリーズは「解消」の話だった。だが最近、その手前にあるものについて考えている。
属人化は、ある日突然生まれるものではない。多くの場合、その土壌になっている構造がある。「少数精鋭」という体制だ。
「少数精鋭」という言葉の心地よさ
SAP要員の不足が深刻になる中で、運用保守を少数精鋭で回す体制を選ぶ企業が増えている。
気持ちはよくわかる。経験豊富なメンバーを少人数だけ確保すれば、コストは抑えられるし、現場は安定して回る。意思決定も速い。「精鋭が揃っているのだから大丈夫だ」という安心感もある。
短期的には、これは合理的な選択に見える。実際、1年や2年なら何の問題も起きないだろう。
問題は、その先だ。
少数精鋭が静かに生み出すもの
人が少なければ、担当は固定化する。FIはこの人、COはこの人、インターフェースはこの人——それ以外の選択肢がないからだ。
そして全員が手一杯だから、バックアップ要員を育てる余裕は生まれない。「教える時間があったら目の前の対応を片付けたい」が日常になる。こうして、誰も望んでいないのに、属人化は静かに、確実に進行する。
属人化のシリーズでも書いたことだが、属人化は個人の問題ではない。抱え込んだ本人を責めても何も解決しない。少数精鋭という構造そのものが、属人化を生産し続ける仕組みなのだ。
そして少数精鋭のチームは、ひとり抜けたときの打撃が大きすぎる。5人のチームから1人抜ければ戦力は2割減ではない。その人しか知らない領域があれば、その領域の対応力は一時的にゼロになる。長期休暇、病気、退職——人である以上、避けられないことばかりだ。
そこに重なる、要員の高齢化
もうひとつ、あまり語られない問題がある。SAP要員の高齢化だ。
ECC、さらにその前のR/3の時代から現場を支えてきた世代が、定年に近づいている。私自身、その世代のひとりだ。35年この仕事を続けてきて、周りを見渡すと、同世代のベテランが現場の中核を担っている光景は珍しくない。
では、その人たちの交代計画はあるのか。
正直に言えば、「あの人が辞めたらどうするのか」を考えないようにしている現場のほうが多いのではないかと感じる。考え始めると答えがないから、目の前の安定を見て安心することにする。少数精鋭の「精鋭」が60歳を超えていく現実から、目をそらしたまま。
2027年問題が、締め切りになる
この構造的な問題に、明確な期限が刻まれている。2027年末のECC標準保守終了、いわゆる2027年問題だ。
S/4HANAへの移行需要が集中し、SAP経験者の奪い合いはすでに激しくなっている。移行プロジェクトが経験者を吸い上げ、運用保守の現場はさらに細る。「今の体制のままで、移行も日々の運用も乗り切る」は、多くの現場で成立しない計算だと思う。
少数精鋭の現場にとって、これは二重の痛手になる。ただでさえ替えの利かないメンバーが、市場ではいくらでも声がかかる状態になるからだ。引き留められる保証は、どこにもない。
「今いる人でなんとかする」から「組織として育てる」へ
では、どうすればいいのか。特効薬はない。だが方向ははっきりしていると思う。「今いる人でなんとかする」という発想から、「組織として育てる」という発想への転換だ。
具体的には、こういうことだ。担当のローテーションを、効率が落ちることを承知の上で設計に組み込む。若手や未経験者を受け入れ、教育の時間を業務として確保する。ベテランの知識を、本人がいる間に文書とチームの習慣に変えていく。どれも、属人化シリーズで書いた立て直しと同じ地道な話だ。
あのとき、ひとつのチームの属人化を解消するのに1年半かかった。組織全体の要員構造を変えるなら、もっとかかる。だからこそ、始めるのは早いほどいい。2027年が来てからでは、間に合わないのだ。
育てる時間は、コストではなく投資だ。教えている間、目の前の処理能力は確かに落ちる。だがそれは、1人抜けた瞬間にチームが崩れる構造への保険であり、5年後も運用が回り続けるための土台でもある。
少数精鋭は、戦略ではないかもしれない
最後に、少し厳しいことを書く。
「うちは少数精鋭でやっている」という言葉は、戦略のように聞こえる。だが中身を見ると、要員を増やせない・育てる仕組みがない・交代計画もない、という状態に名前を付けただけ、ということがある。それは戦略ではなく、戦略の不在だ。
今うまく回っているチームほど、一度立ち止まって考えてみてほしい。そのチームは、3年後も同じメンバーで回っているだろうか。回っているとしたら——それは喜ぶべきことなのか、心配すべきことなのか。
属人化シリーズの最終回で、私は「解消の先にあった問い」について書いた。この記事は、その問いの続きでもある。人に恵まれた仕事を、人がいなくなる時代にどう残していくか。私自身、まだ答えの途中にいる。
同じような現場に立つ方の、何かのヒントになれば嬉しい。記事へのご感想やご意見があれば、お問い合わせフォームからお寄せいただけると励みになる。
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