「いないと困る、いても困る」── ある属人化の現場で私が見たもの【第1回】

SAPの運用保守の現場に長くいると、どこかで一度は直面したことがあるのではないだろうか。

「あの人がいないと、この作業は誰もできない」

特定のひとりが、知識も、お客様とのパイプも、クリティカルな作業も、すべて抱え込んでいる。そういうチームが、確かに存在する。

今回から5回にわけて、私が実際に体験したSAP運用保守チームの属人化との戦いを書いていきたい。うまくいったことも、うまくいかなかったことも、正直に。

目次

着任前日、私が知っていたこと

その現場に着任することが決まったとき、事前に聞かされていたことはひとことだった。

「チームの立て直しをお願いしたい」

それだけだった。どんな状況なのか、どんなメンバーがいるのか、何が問題なのか——それは自分の目で確かめることになっていた。

チームの構成

その会社さんにSAPが導入されたのは7年前。私が担当することになったのは、その運用保守を担う1部門のチームだった。

構成はシンプルだ。リーダー1名、メンバー3名の計4名。

着任当初、リーダーは私より少し先輩の方が担っていた。1ヶ月間の引き継ぎ期間を経て離任され、私が正式にリーダーに就任する形だった。その先輩リーダーの上には、複数のサブチームを束ねるPMもいた。つまり私は、実質的にはサブチームリーダーとして入ることになる。

そして、チームの中にA君がいた。

A君という存在

A君はSAP導入当初から7年間このチームに関わっており、私より10ほど年下の同じ会社の後輩だった。メンバーの中でもっともSAP経験が豊富で、業務への理解も深く、お客様との信頼関係も厚い。

技術力もある。面倒見も良い——機嫌がいいときは。

体調管理や自己管理が得意ではなく、気分にムラがあった。他のメンバーとそりが合わないこともあった。約束していた打ち合わせを、事前の調整なしに休んでしまうこともしばしばあった。

リーダーはSAPの知識でA君に及ばない。メンバーはA君に振り回される。A君は機嫌が良ければチームをリードし、悪ければ誰も近づけない。

自然と、チームの重心はA君のところに集まっていた。

月次締め作業という「ブラックボックス」

SAPの運用保守において、月次・四半期・半期・年次の締め作業は特に重要だ。これが滞ると、お客様の業務に直接影響が出る。

そしてこのチームでは、その締め作業はA君だけが把握していた。

簡易な資料は存在していたものの、実際に何をどの順番でやるのか、どのデータをどう処理するのか、どこでお客様と何を確認するのか——その実態はA君の頭の中にしかなかった。

過去に一度、チームとして取り組もうとしたことがあったという。引き継ぎ目的で1名を任命し、A君にレクチャーしてもらう形をとった。しかし、結果は何も変わらなかった。

なぜ変わらなかったのか——それは後になって、私なりの答えが見えてくることになる。

A君が後に教えてくれたこと

着任からしばらく経って、A君がポツリと話してくれたことがある。

「いろんな方が着任しては、数ヶ月で離任していくのを見てきました。さみしくはありましたけど、まあ仕方ないかなって」

A君は「困った人」ではなかった。長い時間をかけて、気づかないうちに「属人化を背負わされた人」になっていたのだ。

次回:「属人化を解消せよ」と言い渡された日

着任初日、私はIT部門のマネージャーとPMに呼ばれ、会議室に通された。

開口一番、ミッションが告げられた。

「月末月初の定例作業に、ひとりで5人日費やしている。これを解消してほしい」

次回は、そのミッションをどう受け止め、どんなGOALを自分で提案したのか——着任初日の会議室でのことを書く。

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この記事を書いた人

SAPコンサルタントとして35年以上、数多くの現場を歩き続けてきました。
プロジェクトの裏側、現場で学んだこと、失敗と気づきをここに綴ります。
投資・旅行・フルマラソン。まだまだ現役で走り続けています。

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