日次共有会を変え、チームの空気が少しずつ変わり始めた。次に私が着手したのは、このチームが抱える本丸——定例作業の属人化解消だった。
まず「見える」にした
A君の頭の中にある定例作業を、チームの財産にする。そのための最初の一手は、見える化だった。
使ったのはフロー作成ツールだ。定例作業の全体像——何をどの順番で、どのデータを使って、どこでお客様と何を確認するのか——を1枚の資料にまとめることにした。
このとき大事にしたのは、私やA君だけで作らないことだった。
みんなでワイワイ言いながら書き上げた。
「ここってどういう意味?」「このデータ、どこから来るの?」——チームメンバーが率直に聞き、A君が答える。その会話の中で、初めて全員が定例作業の全体像を「自分ごと」として理解し始めた。
A君も、不思議と素直に話してくれた。問い詰められているのではなく、一緒に作っているという場の空気がそうさせたのだと思う。
2本柱で進めた
見える化と並行して、改革の2本柱を動かし始めた。
柱① 手作業をなくす(自動化)
定例作業の中には、毎回同じデータを手で抽出し、同じフォーマットに貼り付けるという繰り返し作業があった。これを自動化することにした。
他チームのメンバーが協力してくれた。データ抽出の自動化、抽出したデータをお客様提出資料に反映するツールの開発——地道な作業だったが、少しずつ形になっていった。
柱② 他メンバーでも対応できるようにする
ここで起きたことは、私の力量とは関係ない話だ。正直に書く。
他メンバーが、自分たちで動いた。
まず、各自が見よう見まねで手順書を詳細化し始めた。実際に手を動かしながら「ここまでは書けた。でもここから先がわからない」「なぜこの手順が必要なのかが理解できない」——そういう具体的な問いを、自分たちの言葉でA君にぶつけていった。
これが効いた。
「教えてください」ではなく、「ここまでは理解した。この部分だけ教えてほしい」という問いかけは、A君の受け取り方がまるで違った。自分たちが本気で何とかしようとしている、そのチームの思いがA君にも伝わったのだと思う。A君は、チームの仕事として本気で向き合ってくれるようになった。
リーダーとして私にできることには限界がある。チームが自分たちで動き始めたとき、初めて本当の変化が生まれる——この仕事でそれを実感した。
半年後、時間が縮み始めた
すぐには変わらなかった。
最初の数ヶ月は、やっていることもぎこちなく、目的もうっすらわかる程度で手探りだった。自動化ツールの精度が上がらず、結局手作業が残ることもあった。
それでも続けた。
取り組みを始めて半年ほど経ったころ、変化を感じ始めた。定例作業にかかる時間が、少しずつ縮んできていた。A君以外のメンバーが「あの作業、私でもここまでならできます」と口にするようになってきた。
小さな変化だった。でも、確かな変化だった。
属人化は、その人のせいではない
ここで少し立ち止まって書いておきたいことがある。
この一連の取り組みを通じて、私はA君を「問題のある人」として扱ったことは一度もない。
A君は、誰よりも真剣にこの仕事に向き合ってきた人だ。長い時間をかけて知識を積み上げ、お客様との信頼を築き、誰も知らない作業を一人でこなし続けてきた。その結果として属人化が生まれたのであって、それはA君の責任ではない。
属人化はチームと組織の問題だ。
仕組みがなかった。引き継ぎの設計がなかった。チームで共有する文化がなかった。それが積み重なった結果だ。
だから変えるべきは仕組みであり、文化であって、人ではない——私はずっとそう思いながら動いていた。
次回:1年半後の声のトーンが変わった日
着任から1年半が経つころ、チームに確かな変化が訪れた。
定例作業はA君以外のメンバーでも回せるようになり、日次共有会には明るい声が響くようになっていた。
そしてA君自身にも、変化があった——最終回に書く。

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