人にSAPを勧めるとき、私が迷わず挙げる一冊がある。
『世界一わかりやすいSAPの教科書 入門編』(著者:とく/発行所:秀和システム)だ。
「入門編」と付いているが、初心者だけの本ではない。私のように長くSAPに関わってきた人間にとっても、value のある一冊だと思っている。今日は、この本の何がいいのか、そしてこの本を通して思い出す、ある忘れられない出会いについて書きたい。
なぜ、どのキャリア層にも勧められるのか
この本のすごいところは、「初心者がSAPを理解するための本」であると同時に、「熟練者が初心者にSAPを説明するための本」にもなっている点だ。
長く現場にいると、知識は増えるが、その分「初心者がどこでつまずくか」が分からなくなっていく。専門用語を専門用語で説明してしまい、相手の頭にハテナが浮かんでいることに気づけない。これは、ベテランほど陥りやすい罠だ。
この本を読むと、初心者の目線を取り戻せる。「ああ、こう説明すれば伝わるのか」という発見がある。だから、初心者にも、その初心者に教える立場の人にも効く。まさに、どのキャリア層にも勧められる”教科書”だ。
宅配ピザ屋で、SAPを説明する人がいた
この本の話をすると、いつも思い出す出会いがある。
この本が世に出るより前のことだ。私は、あるSAPの教育担当者に会う機会があった。その人の説明が、絶妙だった。
その人は、「宅配ピザ屋にSAPを導入したら」という設定で、SAPの仕組みを説明していた。ピザやパスタの作り方——材料を仕入れ、注文を受け、調理し、届け、代金をいただく。その一連の流れの中に、SAPのモジュールをひとつひとつ、当てはめていくのだ。
材料の仕入れと在庫はこのモジュール。注文と売上はこのモジュール。原価の計算はここ。お金の流れはここ——。難解なはずのSAPの全体像が、ピザ屋の日常という、誰もが知っている風景に重なって、すっと頭に入ってくる。
その様子を見て、私は素直に「すごい」と思った。そして、「自分もこう説明できるようになりたい」と思った。
「分かりやすく伝える」は、立派な技術だ
当時の私は、SAPの知識を増やすことばかりに気を取られていた。だが、あの教育担当者を見て気づいた。知っていることと、伝えられることは、まったく別の能力なのだと。
どれだけ深い知識を持っていても、それを相手の分かる言葉に翻訳できなければ、現場では半分しか役に立たない。逆に、難しいことを身近なたとえに置き換えて伝えられる人は、それだけで信頼される。「分かりやすく伝える」というのは、才能ではなく、磨くべき立派な技術なのだ。
『世界一わかりやすいSAPの教科書』が多くの人に支持されるのも、著者がその技術を持っているからだろう。この本の題材も、あの教育担当者の説明と同じく、身近なお店の物語からSAPに入っていく作りになっている。アプローチが似ているのは、偶然ではないと思う。「分かりやすさ」を突き詰めると、人は自然と、誰もが知っている日常のたとえにたどり着くのだ。
紙芝居のように、SAPを語れる人になりたい
あの日から、私の中にひとつの憧れが残っている。
紙芝居のように、いつでも、誰にでも、SAPを語れるようになりたい——という憧れだ。
難しい資料を広げるのではなく、一枚一枚めくるように、物語としてSAPを説明する。聞いている人の表情がほぐれ、「なるほど」とうなずいてくれる。そんなふうに伝えられたら、どんなにいいだろう。当時はそれを書籍やコンテンツの形にするとまでは考えつかなかったが、今こうしてブログを書いていると、あの憧れが、形を変えて自分の中で生きているのを感じる。
このブログSAPIENTも、いわば私なりの紙芝居なのかもしれない。難しいことを、現場の言葉で、できるだけ分かりやすく。あの教育担当者の絶妙な説明に、少しでも近づきたいと思いながら、今日も一枚、めくっている。
SAPをこれから学ぶ方、誰かに教える立場の方には、『世界一わかりやすいSAPの教科書 入門編』を、自信を持ってお勧めしたい。そして、知識を蓄えるのと同じくらい、「どう伝えるか」にも目を向けてみてほしい。そこに、エンジニアとしてのもう一つの伸びしろがある。
同じような現場に立つ方の、何かのヒントになれば嬉しい。記事へのご感想やご意見があれば、お問い合わせフォームからお寄せいただけると励みになる。
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