SAPのCO専門書、日本語にはなぜ無いのか——CO担当になって痛感した情報の壁

今年からSAPのCOモジュール(管理会計)を担当することになり、私はある壁にぶつかった。

勉強しようと思って、日本語の本を探したのだ。ところが——ほとんど、ない。

長くSAPに関わってきたが、CO専門の腰を据えた学習は初めてだ。だからこそ、まず信頼できる一冊を手元に置きたかった。その当たり前の願いが、なかなか叶わない。今回は、その「情報の壁」について書いてみたい。

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日本語のSAP CO専門書は、ほぼ存在しない

結論から言うと、COモジュールを正面から扱った日本語の専門書は、ほぼ見当たらない。

SAPの入門書や、導入・運用全体を見渡す本はある。FIとCOをまとめて扱った入門書として『SAP担当者として活躍するためのFI/CO入門』(秀和システム)あたりが、現状ほぼ唯一に近い選択肢だ。これはこれで貴重な一冊だ。

だが、「CO専門」で、原価計算や収益性分析といった領域を深く掘り下げた日本語の本となると、途端に姿を消す。CO担当者が実務で突き当たる疑問に、日本語の書籍はほとんど応えてくれないのが実情だ。

一方、英語には「決定版」が何冊もある

ところが、視野を英語に広げると、景色が一変する。

SAP公式の出版社であるSAP PRESS(ドイツのRheinwerk社)からは、COモジュールの専門書が何冊も出ている。しかも、どれも分厚く、本格的だ。書誌情報だけ挙げてみる。

  • 『Controlling with SAP S/4HANA: User Guide』(Janet Salmon, Stefan Walz/約593ページ)
  • 『Product Cost Controlling with SAP S/4HANA』(John Jordan, Janet Salmon/約674ページ)
  • 『Margin Analysis with SAP S/4HANA』(Kathrin Schmalzing)
  • 『Material Ledger in SAP S/4HANA』(Paul Ovigele)

原価計算、収益性分析(マージン分析)、マテリアルレジャー——CO担当者が頭を抱える領域それぞれに、専門の一冊が用意されている。日本語との落差は、正直、ため息が出るほどだ。

著者の顔ぶれが、また凄い

本の厚みだけではない。著者の顔ぶれにも驚かされる。

たとえば、複数の本に名を連ねるJanet Salmon氏は、SAP本社で管理会計(Management Accounting)のチーフプロダクトオーナーを務める人物だとされる。つまり、COという製品の仕様を作っている、当事者そのものだ。

仕様を決めている本人が書いた解説書——これ以上の一次情報があるだろうか。「COの設計思想を知りたければ、この人の著書を読め」と言われたら、納得するしかない。

なぜ、これほどの差が生まれるのか

このギャップは、どこから来るのか。私なりに考えてみた。

ひとつは、市場の大きさだろう。SAPの本場はドイツであり、英語圏は世界最大の利用者層を抱える。専門書を出しても採算が合う市場規模がある。一方、日本語のSAP CO専門書は、読者数を考えると出版社が二の足を踏むのも理解できる。需要が薄い領域に、分厚い専門書を出すのは商売として難しい。

もうひとつは、SAPの進化の速さだ。S/4HANAは半年ごとに更新されていく。書籍にして世に出す頃には、もう内容が古くなりかねない。翻訳というワンクッションが入る日本語版は、なおさら不利になる。

情報の壁は、裏を返せばチャンスでもある

では、日本のCO担当者は不利なまま泣き寝入りか——というと、そうとも言い切れない。

考えてみれば、英語の専門書を読み解ける人は、それだけで一歩抜きん出られるということだ。みんなが日本語の情報だけで戦っている中で、一次情報に近い英語の決定版にあたれる人は、知識の質で差をつけられる。情報の壁は、乗り越えた人にとっては、そのまま参入障壁になる。

もちろん、英語の専門書を674ページ読み通すのは、簡単なことではない。私自身、現場の生きた疑問とセットで、少しずつ潰していくしかないと思っている。だが、AIに訳を手伝ってもらいながら読む、という選択肢が当たり前になった今、その壁は以前より確実に低くなっている。

そしてもうひとつ。日本語の情報が薄いということは、現場で得た知見を日本語で発信することに、それだけの価値があるということでもある。このSAPIENTという場が、ささやかでもその穴を埋める一助になれたらと思っている。CO初担当として悪戦苦闘している今の私の記録も、いつか誰かの役に立つ日が来るかもしれない。

同じような現場に立つ方の、何かのヒントになれば嬉しい。記事へのご感想やご意見があれば、お問い合わせフォームからお寄せいただけると励みになる。

※書名・著者・ページ数等は調査時点の情報です。最新の刊行状況や入手可否は各販売サイトでご確認ください。

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この記事を書いた人

SAPコンサルタントとして35年以上、数多くの現場を歩き続けてきました。
プロジェクトの裏側、現場で学んだこと、失敗と気づきをここに綴ります。
投資・旅行・フルマラソン。まだまだ現役で走り続けています。

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